第11章 それは、不死鳥 (4)
俺は自分の傘なんて持っていないからビスタに借り、は誰かの合羽を着ていてだから傘はいらないと言う。そういうわけにはいかない。半ば強引に傘に入れるとは明らかに緊張してしまう。どうしろってんだ。ナースたちも一緒にと誘っていたがはやしたてられるように送り出された。勝手に言ってろ。
俺はと並ぶことに慣れていたが、その自覚があるのはたしかに俺だけだった。不死鳥の前でのを知っているだけに違和感が凄まじい。なんだこの落差は。
財布を渡してあるのにはノートやらペンやらを買うばかりで、いっこうに自分の服は買わず、俺やクルーの貰い物ばかり着ている。
だから男物の服屋へ行って、たまにはサイズの合ったものを選べと言った。金を使うことに恐縮していたが、青い服を見つけると「私の好きな色です。不死鳥さんも同じ色ですよね」と言って顔をほころばせるので反応に困ったりした。
靴屋を出たころには緊張もほどけていたので、意地が悪いとも思いつつ、ポポロ島の名物・ポポロリングを買って、半分をにやる。「あつあつですね」と口角を上げる。
笑ってないくせに。
「味、しないんだろい」と刺せば、その口角は途端に真一文字になった。ポポロリングの包み紙を持つ指に力をこめて、「おかげで好き嫌いがなくなりました」とへらりと笑う。
ああ、またその笑い方。むかつく。視界から排除するために抱き寄せてしまいたくなる衝動を感じ、それは違うと消去して、ポポロリングをの口に突っ込んだ。「んにゃっ」「味がしなくても美味いもんは美味い」
それが昨日の話だ。
「、大丈夫? ねぇ、いちど鍵、開けてくれない? ?」
医務室のあたりが騒がしい。サーシャの呼びかける名前が問題児のとくれば素通りするわけにはいかない。
「どうした?」
「あ、マルコおはよう。ちょうどよかった。いま呼びに行こうかと思ってたの。がトイレに引きこもって出てこなくて……」
「どれくらい経つ?」
「もう三十分は……」
サーシャが声を落とす。