第10章 それは、不死鳥 (3)
「……はい」
「その鳥は『不死鳥』だ。覚悟しろよい」
そう言ってマルコはにやりと口角を上げた。
ピキリと理由なく恐ろしくなって思わず船長の懐に飛び込めば、船長はまた愉快そうに「おっかねぇ兄貴だなぁ」と笑ってその大きな手で頭を撫でてくれた。
なにをどう覚悟すればいいのかまったくわからない、と冷静になれたのは、まもなく始まった十六番隊合流の宴のときだ。
この大所帯の海賊団は毎日が宴みたいだと思っていたけれど、彼らが「宴だ」と言ったときの本気度はさらに上をいった。停泊中のポポロ島は縄張りらしく気を張る必要はない。食糧も酒も潤沢。いままでの食事だって決してみすぼらしくはなかった。それでも今宵のご馳走を見ると、今日はやはりハレの日なのだとわかる。
おかげで厨房はいつもの倍のコックが倍の時間をかけて準備していて、サッチは指示出しに忙しい。サッチと目が合うとにっこり笑みを返された。サッチがなにも言わないなんて珍しいなと思ったけど、それだけ忙しいのだろう。
私も突っ立っていないでできることやらなきゃ。働かないと。宴は甲板でやるという。外はすこし涼しいけれど寒いほどではないし気持ちいいと思う。でもなにが大変って厨房と甲板の往復がしんどい。
やがて何人かが楽器を持ち出して楽団を形成してお披露目していた。バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、トランペット、オーボエ……。クラシック音楽の楽器。クラシック音楽に詳しくないが、とにかく私の知らない曲。民族的な曲調のやはり初めて聴く旋律。ノリのいい人たちは踊り始めている。楽しそうだ。楽団だけかと思えば、今度はベースにギターにドラムとバンドまで組まれ、ジャズ調だったりロックっぽかったり。「さすが十六番隊はクオリティがちげぇ」と感心されていたから、彼らはみな十六番隊なのだろう。みなで大合唱している歌もあったが、もちろん私は知らない。