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【ONE PIECE】 さよなら世界

第9章 それは、不死鳥 (2)


 船上ではナースと一緒でも、華部屋の奴らと一緒でも、ましてや俺といるときや、一人きりのときでさえ、歌を歌うそぶりなど見せたことがない。十六番隊のいない本船は普段よりもずっと静かだが、それでもときどき誰かがウクレレを鳴らしているし、ラクヨウたちは談話室で大ボリュームで音楽を流すのが好きだ。そんなときこそは鎧を着て、音楽に身を任せる者たちを遠くから眺めたり、あるいは聞こえないふりをした。だからてっきりは音楽が嫌いなのだと思っていたのだが、そうではないらしい。「からおけ行きたいなぁ。一人からおけしたい」と呟く。
「ねぇ、きみはいつも誰が面倒みてくれてるの? 私、やりたいな。マルコに言ってみようかな。もしかして十六番隊の船に乗ってたのかなぁ。だったら私と会ってないよね。あ、私まだ皆さんに挨拶してないや」
 はため息を漏らす。
「そろそろ戻らないと。おまえはいいなぁ、一直線に飛んでいけるもんね。またあとでね」
 そう言ってはベンチに置いたままの数個の紙袋を手に、度々振り返りながら丘を降りていく。
 人型に戻って説明をするならいまだ。
 こういうことは早いうちに種明かししておかないと膿むだけだ。理性ではそう判断しているのに、体は動かない。正体が俺だと知れば、きっとあの笑顔は向けられない。黒い目の奥にはなにも灯らない。歌うこともない。
 誰かが一本道の丘を登ってくる。よりによって……。
 はそいつの着ている物に海賊団のマークが染め抜かれているのを見て、立ち止まり話をしている。の気が緩んでいるのかそいつの外見がの警戒心を緩和させているのか。明るい。内容は聞こえなくてもわかる。
 俺は飛んだ。あとは野となれ山となれ。
 空を見上げたイゾウがにやりと俺を見た。

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