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【ONE PIECE】 さよなら世界

第9章 それは、不死鳥 (2)


 俺はまた低木の枝に上がり、海の方を向く。も海を眺める。は静かに話し始めた。俺に、ではない。初めて見る鳥に。いや、大きな声の独り言だ。
「今日はね、ナースたちと遊んでたの。街で評判のモーニングに行って、ショッピングいっぱいして、カフェでケーキも食べて、おしゃべりもして、楽しかった」
 内容とは裏腹に声に暗さが宿りはじめる。俺ももしばらく海を見ていた。
「……そういえば鳥って鼻はいいんだっけ?」
 答えが返ってくるとは思ってないだろうが、それでも俺のほうを覗き込んで問う。俺は素知らぬまま海を眺め続けるが、次の言葉に微かに目を見開く。
「無味無臭なんだよねー。この世界」
 はははは。と笑っているが笑い事ではない。味覚だけでなく、嗅覚もか。
「無臭ってことはないな。めっちゃ鼻に近づけてめっちゃ嗅げばわかるもんね」
 そう言いながらこんどは自分の着ているシャツを鼻に当ててしきりに吸い込む。
「うん。マルコの匂い」
 そう呟く顔はまるで『いい匂い』とでもいうようにほころんでいたので俺はばれないように数歩後ずさった。はしゃべり続ける。
「さっきみんながアロママッサージ受けに行くのついてったんだけど、だめでさ。ラベンダーもローズもなんもわからないんだもん。だから先に帰ってきちゃった……ま、目も耳も正常だし……そりゃ世界が違うんだもん。どっかしらバグがあっても不思議じゃないよね」
 は俺の知らないの世界の歌を小さく口ずさみながら、俺を、というか、鳥を、観賞している。
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