第9章 それは、不死鳥 (2)
忍び足で後ずさりしながらベンチに置いたままの紙袋に戻った。なにかを取り出し、すぐ木の下にやってくる。
「おいで」
俺を見上げて手招きする。
「おいしいの、あるよ。ほら」
手にはチョコが乗っていた。
「いまこれしかないの。だめ? チョコ、食べない?」
鳥はチョコは食わんだろ。
「おいでよー。もっと近くで見たい」
しつこかった。俺は仕方なく間合いに慎重になりながら木の根元に降りた。歓声があがる。と俺の間にチョコがそっと一粒置かれる。
「はい、どーぞ!」
いや、さすがに食べない。そっぽ向く俺には不満気だ。
「ちぇっ、やっぱだめかぁ」
は恐る恐る手を伸ばして俺に触ろうとする。そんなに動物が好きだったのか。だが後々のことを考えるとこれ以上距離を詰めるのはまずい。
「あ、逃げた。オーケーオーケー。もう触んない。見てるだけ。ね?」
は木の根に座り膝を抱える。
「私も触られるの苦手だからわかるよ。……ってか私なんか独り言多いね。ははっ。なんか止まんない。鳥にこんなに話しかけてるなんてどうした私……。そうだ、思い出した。しょうがくせいのとき友だちがオウム飼ってたなぁ。きみはなにかしゃべるの?」
そう言って、「よいよーい!」「ねぇ、ほら。『よいよーい』!」と誰かの口調を真似ているのは聞かなかったことにする。
それより『しょうがくせい』とは? は自分の世界の話をあまりしたがらない。落ちてきたその日にオヤジとジョズと俺の三人で軽く聞いただけだ。は白ひげ海賊団はおろかグランドラインすら知らなかった。空島からの落下も考えられたが、『ちきゅう』というところには『たいせいよう』や『たいへいよう』という海があるらしい。
好奇心旺盛な隊員たちが質問攻めにしていたこともあったが、は困惑していて、折れそうなくらいスプーンを握りしめていたのではけさせた。まぁ困惑の原因は質問内容ではなく野郎どもだったからかもしれない。それでも、自身の過去について語りたがらないのはなにもに限ったことではないから、隊員たちも察したのだろう。