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【ONE PIECE】 さよなら世界

第1章 2月30日の来訪者 (1)


 敵か味方か得体の知れぬ者とはいえ、甲板に寝かせるときにぞんざいな扱いにならなかったのは、目を閉じたその顔があまりにあどけないものであり、少年かと思ったが、少年にしては胸が膨らんでいる。骨格も肉付きも女のようだ。ペチペチと頬を叩けば顔を歪ませゆっくりまぶたが開いてく。
 目が合った瞬間、こいつはなにかの能力者なのかと思った。というのも一瞬俺は動けなかったからだ。殺意の孕むものだったらかえって俺はなにかしら反応しただろう。ただそいつの黒く大きな瞳を「深い」と思った。女(仮)は飛び退き尻もちをつきながら後ずさるも、隊員たちが取り囲む甲板からは鼠一匹逃げられない。
 女(仮)の顔は青ざめ、唇を硬く合わせ、わりかし大きな黒目であたりを見回す。この女(仮)に比べれば遥かに体のデカイ奴ばかりのうえ、いまはエースでさえも冬物の服を着込んでいるのだから、よけい皆が巨体に見えるだろう。女(仮)は小さな体でできる最大限の警戒をしているが、子犬が追い詰められて必死になっているようにしかみえない。
「おい、ハナッタレ。おまえ、女か?」
 特等席に座ったオヤジがぴしゃりと言えば、女(仮)はびくりと向き直る。両の手を白くなるほど握りしめ縮こまってはいるが、泣きじゃくりも悲鳴もあげずじっとオヤジと目を合わせている。
「とりあえずその服、脱げ」
 船がざわめく。オヤジが言ったこととは思えなかった。海賊とはいえオヤジは戦闘意思のない女・子どもには手をあげない。強姦まがいのことは「胸クソ悪ぃ」と嫌いなのも周知のこと。
 女(仮)は男物らしき黒のTシャツにジーンズといういでたち。こいつ夏の島から来たのか。そしてオカマか。前腕の鳥肌は寒さのせいだけではないのだろう。戦闘経験があるようにはみえない。抱き抱えた感触でも隠し武器はなかった。
 女(仮)は俯く。泣くのかと思いきや、へらりと笑った。一瞬俺の背中になにかが走る。視線を床に固定しながらTシャツを脱ぎ、震える手を叱咤するような勢いでブラジャーも脱ぎ捨て、すっと視線をオヤジと合わす。ナースを見慣れている俺らにとってこの女の小さな乳房は色気に欠けるが、それでも若い隊員たちを中心にどよめきが起こる。これだけの自他ともに認める荒くれ者たちの目の前で笑いながら上裸になる女がいるだろうか。オヤジは心底おかしそうにだがどこか嬉しそうににやりと笑う。
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