第1章 2月30日の来訪者 (1)
甲板に出るとすでに雪はちらつく程度になっていた。空はどんどん明るさを増し、久方ぶりの青空が表れるのも近そうだ。隊員たちもどんどん船内から出てくる。はしゃぐことまでしないのは妙な緊迫感で周囲を意識するオヤジがいるからだ。
声を掛けるのもためらうほど意識を集中しているオヤジの側まで行けば、「いつでも飛べるようにしておけ」と一言。
なにが起こるというのか。飛んでどうしろというのか。
なにかを探すように空を見上げるオヤジに倣い、自分もオヤジの探すものを探す。いつのまにか全員そろった甲板は静まり返っていた。
「来るぞ、マルコ。落とすなよ」
にやり、と戦闘時の笑みを浮かべて空の一点を凝視する。次に隊長たちも反応し始め顔を上げたころには飛び立っていた。
遥か天空から落下してくるもの。否。落下という速度ではない。舞い降りてくる。迷いなく高度を上げてそれに突進するもいよいよ正体が目視できたところでほんの僅か速度を落とす。戦闘意思を解除した。
それは気を失った人間だった。