第6章 華部屋(はなべや)へ (1)
「見ろよ。あんなガキまでいるぜ。ぼっちゃんは荷物持ちかい。ぎゃははは!」
その男は酔っ払っているのか薬でもやっているのか無邪気にはしゃいで私を指差す。大したことは言われてないのに寒気がした。思わずすぐ前を歩くマルコのサッシュを握り締めた。マルコが振り返る。放せと言われるかと思えばなにも言わず歩調を合わせてくれた。
さきほどの男がそんな光景にさらに爆笑し「まるで犬だな。白ひげんとこに忠犬がいるぞ。犬の散歩とはご苦労様です!」と敬礼までする。耳に入れないようにして、私もサーシャのように気丈にいようと努めてもマルコのサッシュを握る手は強くなる。
私が居候しているのは海賊船だ。
白ひげ海賊団も傍から見れば『いかにもワルです』の輩ばかりなんだと思うとなんだか不思議な感じがした。船ではテンポラ島のような怖い思いをしたことはない。威圧感のある人や口の悪い人はたくさんいるけれど、すくなくとも私に対する眼差しはテンポラ島のゴロツキとは違うものなんだといまならわかる。
よりによって海賊船に助けられたことを私は嘆いていた。なんてついてないんだろうと。でも、違うのかもしれない。
そもそもあの燃える服で海に落ちていたら私は生きていなかったと思う。溺れ死ぬだけじゃなくて大火傷付きというオプションに、怨霊になるくらい世界を呪って死んだと思う。
もしテンポラ島に落ちていたら……。東京よりもずっと治安の悪いこの街で、たった一人で、生まれたての赤ん坊みたいになにもわからない状態で、果たして私はやっていけたかどうか。
白ひげ海賊団に拾われたことは、もしかしたら、実は、とてもラッキーなことなのかもしれない。