• テキストサイズ

【ONE PIECE】 さよなら世界

第6章 華部屋(はなべや)へ (1)


 一人でダメならサーシャを誘おうと思いついた私は女部屋へ向かう。
 サーシャはちょうど出かける用意をしていた。黒く長い髪は丁寧にアップされ、化粧も服もいつもより隙がなかった。
「! ちょうどよかった。これからサッチと街に出るの。一緒にどう? あの人、入港したらまずは食料調達だっていうから今夜は無理かと思ってたんだけど、思いのほか早く終わったみたい」
 ほんと急なんだから、と眉根をひそめていても声はずいぶん明るい。
 サーシャは恋している。
 それくらい私にでもわかった。相手はマルコだと勘違いしていたんだけど……。マルコとはときどきチェスやカードをする言葉通りの遊び相手らしい。サーシャははっきりと訂正した。「私のは、あのパイナップルじゃなくて、厨房のリーゼントよ」。『私のは』という言い方がサーシャらしかったし、どことなく牽制されたような感じもあって、それがますますサーシャの本気を証明しているみたいだった。そうか。サーシャはサッチなんだ。すこしほっとした。ほっとしたというのは、つまり、もちろん、サーシャに妬まれる懸念がないということだ。うん。
 久しぶりの街でのデートを邪魔する気になどなれない。サーシャを見送り、残っているナースと雑談する。テンポラ島はあまり治安が良くないので、女だけで出かけるのも避けたほうがいいということだった。
 やがて彼女たちは仕事当番に戻ってしまったので、私は食堂で手伝い、給仕や片付けやで気を紛らわし、空いたテーブルでグラスを磨き上げていた。なんせ数が半端ない。ので、今日はこのひと箱分と決めている。
 しかし、私はいったいこんなところでなにをしているのだろう。陸を目の前にして上がれず、異世界の海賊船の隅っこでグラスを磨き続ける。溜息が出る。グラスが汚れていたってきれいだって、きっとみんなにはどっちだっていいことなのだ。
 手が、止まる。
/ 86ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp