第6章 華部屋(はなべや)へ (1)
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書庫の窓から外を眺めていると、水平線に星がいくつも見えた。船内では廊下を行き交う人が増え、甲板に出る人が増え、にわかに騒がしくなっていく。水平線の星たちはどんどん大きくなって、街の灯りなのだとわかる。どこかの島に着いたらしい。東京のような高層ビル群はないけれど、白い外灯とピンクや緑やオレンジのきらびやかなネオンがこの船からも見られた。
降りてみたい。揺れない地面を歩きたい。街では音楽も流れているかな。
甲板から港にどんどん人が流れていく。みんな上陸に気分を高めていて、この光景を知っていると思えば、そうか、お祭りの屋台の前を流れていく人たちとそっくりだった。日はすっかり暮れていても時刻はまだ夕方だ。
私も降りてみよう。
そう思ってタラップへ近づくと私の前に大きな柱のような足が立ちはだかった。船長ほどではないけれど、エースやマルコよりもずっと身長の高い人。名前は……たしかフォッサ。
「嬢ちゃんはダメだ」
威圧感に押されてなにも言えない。でも納得できない。どうして。
「誰かと一緒ならともかく、一人ではダメだ」
それって私は軟禁されているような気がするんだけど。そうなの? ああ、私って海賊に囚われた人質なの? これから売られたりする、商品? 私、ウェンディ?
フォッサの葉巻の灰がぼとりと落ちた。
「……夜にはマルコも帰ってくるさ」
関係ない。マルコは関係ないじゃないですか、フォッサさん。
ズボンを握りしめて、顔を上げた。一瞬だけフォッサと目が合う。一息に言った。
「フォッサさんとご一緒でもいけませんか?」
フォッサはゆっくり瞬きをして頭を掻く。
「俺ぁ今日はフナバンだ」
フナバン。船番、だろうか。船のお留守番ということか。