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【ONE PIECE】 さよなら世界

第5章 2月30日の来訪者 (5)


「ありえねぇよい。縁起でもねぇ。サーシャは―――」
「なんだ、騒がしい」
 オヤジが扉を開けた。しゃがんでいると立っている俺を見定めて言う。
「ハナッタレ、兄貴が怖くて逃げてきたか」
 入れ。そう言いながらを片腕で脇に抱え上げる。まるで子犬を拾うみたいに。は俺に腕を掴まれる度にぎゃんぎゃん吠えるくせに、今度はなにが起こっているのかわからないみたいに目をぱちくりさせている。
「マルコ、なにかつまみ持ってこい」
 これは、しばらく席を外せ、という意味だ。


 このときオヤジとがなにを話していたのかはわからない。たっぷり時間を空けてからオヤジの部屋を訪ねれば、はオヤジのベッドの足元ですやすや眠っていた。それこそ子犬みたいに。初めて見るような安らかな顔して。
 オヤジは上機嫌だ。
「酒飲ませたらずいぶんにこにこしてやがった。まぁすぐこの様だけどな」
 を起こそうとすると止められた。もうこのままここで寝かせてやれと言う。オヤジ、正気か……?
「おめぇもベッド明け渡したりして、なかなか気遣ってんじゃねぇか」
 肩を竦めてみせることしかできない。
「……オヤジ」
「なんだ」
 訊きたいことがあった。のことだ。俺がなにを知りたがっているのかオヤジはすでに知っているようだった。本当にこの人は侮れない。だがそれを聞くのはいまではない。俺の勘がそう判断する。話題を変える。
「……のベッドは華部屋(はなべや)に入れる」
 オヤジは短く笑う。
「よくイゾウが許したな」
「女嫌いなのは奴だけで、当の華部屋の連中はおもしろがってるよい」
「そうか」
 を見遣るその眼差しが柔らかく、オヤジにこんな顔をさせるなんて青いころの俺だったらに嫉妬していたかもしれない。そう思った。
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