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【ONE PIECE】 さよなら世界

第4章 2月30日の来訪者 (4)


 夕食は食べなかった。お腹が空いたような気がしなくもないが、味わえないことをまた確認することになるだろうと思うと憂鬱になった。柔らかい・硬い、水っぽい・ぱさつく、あったかい・冷たいなど、物質の状態はわかる。わかるのはそれだけ。砂や粘土を食べたことはなかったけれど、たぶんたとえるならそんな感じ。一時的なものかもしれない。精神的ショックで味覚が麻痺しているのかもしれない。異世界に来たんだもん。精神的ショックを受けていないほうがおかしい。
 曇り空がぼんやり朱に染まり、あたりが暗くなるにつれて雲の白は闇と仲良くなっていく。書庫の窓からぼんやりそれを眺めていた。
 マルコの部屋に戻る。今日は一日掃除をしたり、好奇心旺盛な何人かに質問攻めになったりしてへとへとだった。すでに眠い。部屋の主はいなかった。もしかしたら今夜は帰ってこないのかもしれない。サーシャの色っぽい笑顔が浮かぶ。マルコが私を襲わないのはなんでだろうなんて考えていた自分を殴りたい。どんだけ自意識過剰なんだ。あんな素敵な彼女がいれば私なんて眼中にないのは当たり前だ。この数日間、サーシャはどんな心境だったのだろうと想像するといたたまれなかった。
 とにかく私はこの部屋にいてはいけない。この船でいちばん安全な場所はどこか。答えは一つだった。部屋を出るときにふと目に入ったデスクの上の木製のペーパーナイフ。こんなのでどうこうできるとは思わないけど万が一に備えてないよりはあったほうがいいような気がした。
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