第3章 2月30日の来訪者 (3)
「ちゃん、いらっしゃい。ってあれ、パンしか取ってないじゃん。マルコッ、てめぇ隣に座ってながらなにしてんだよ。よそってやれよ」
「ガキじゃねぇんだ。自分でやれよい」
「ガキでもババアでも女は女だ!」
「あ、私、自分で……」
「はい、どうぞ」
「すみま……あ、ありがとうございます」
サッチはちゃっかりの前の席に腰を下ろした。おい、厨房はどうした。
「で? ちゃんは普段どんなの食ってんの? 異世界だろ? 料理も全然違う?」
「えっと……これは、ブロッコリーですよね」
フォークに刺した緑の塊をしげしげと見つめる。
「そ! ちなみにそっちはウィンナー。あ、ウィンナーってわかるか? 肉の腸詰で―――」
は頷く。
「この貝は……見たこと、ないです」
「ああ、それは黒貝っていうんだけど、冷凍してた非常食だから鮮度がなぁ……。癖のある味で好き嫌いあるから口に合わなかったらマルコにあげて。マルコおじちゃんの好物」
「マルコおじちゃんの、好物……」
なぜ繰り返した。は俺の皿に黒貝の殻が山になっているのを見た。一方の皿はどれも一口ずつかじっただけでちっとも減っていない。
「サッチ、コーヒー」
「俺はコーヒーじゃねぇ!」
と言いながらも、取りに行ってくれる親切な仲間。
「、食いたくねぇなら無理するな。残してもサッチは怒らねぇよい」
自分の皿を眺め、背筋を伸ばす。はなぜか気合いを入れていた。
「いえ、大丈夫です。いただきます」
の分のコーヒーも持ってくるサッチ。ありがとうございます。おいしかったです。ごちそうさまでした。の口元は笑っているが、先日の甲板でへらりと笑って見せたときと同じ顔だ。はコーヒーを覗きこむ。マグカップを持つ手が震えていた。