第5章 当たり前
信長said
約束の時まではまだ余裕があるとき
信長は一人、天守で考えていた
何を、と言えば独香のこと
家康の手を拒み、拒絶の色すら見せたあの姿
明らかに自分たちとは違う何かを見たような。
「 ……酒を飲む気にもならん 」
最後には安堵のような涙を流してはいたが
あの拒絶の色が頭から、心から離れない
恨まれ、拒絶されることなど、これまで幾度もあったというのに
彼女のだけは心に重くのしかかる
「 不思議なものだ 」
たった一人の、まだ良く知らない者に
何故こんなにも揺さぶられるのか
心配、不安―
この感情は…?
( もう起きているだろう。見に行ってみるか )
立ち上がり、天守を出る
少し歩くと、家康と出くわす
家康「 信長様……独香との約束ですか 」
「 まだだがな。することも無かっただけだ 」
家康「 …湯浴みに行ってるらしいですよ 」
( 湯浴みか、今なら誰も入っていないだろう )
そうか と短く返事をすると
家康「 様子、見ないんですか 」と問われる
「 見るもなにも、彼奴は逃げるだろう 」
家康「 …そうだと思います。でも、あの状態のあとです。
何を仕出かすか分からない。それに… 」
言葉を閉ざす
「 それに、なんだ 」
家康「 …政宗さんに少し言っただけなんですけど、
彼女の体、あの時の傷の他にも打撲といった跡があったんです
本人は気づいてないのか、昔のなのかは分かりませんが 」
「 …手足だけか 」
全部は見ていない と答える家康
やはり、彼女のことをまだ自分たちは知れていない
家康の言う通り何をするかも分からない
一人にさせては、危ない