第11章 流されてしまいそう
「すまない・・・。君が傍にいるとつい嬉しくなって
事を急いてしまう。今大事なのはエレンの巨人化能力の
解明と、その制御方法だ。君の能力が役に立つかもしれない
というのに、私は一人の男になり下がってしまっていた。
君が止めてくれていなかったら、抑えが効かず抱き潰して
しまっていたかもしれない。止めてくれてありがとう。
今は団長としての仕事を優先するよ」
床を見ながら何かを考え込むエルヴィンの顔は、
もう『団長』のものだった。
エルヴィンはエレンの存在が人類の命運を左右するものだと
考えているのだろう。
ナナシもエレンの存在は静かな水面に投じられた石のように
感じられ、その波紋が今後どうなるか気になる所だった。
「・・・そう言えば、捕らえていた巨人二体が何者かに
殺されたらしいな。ハンジが発狂しながら教えてくれたぞ」
「あぁ、エレンの巨人化実験を始めた矢先の事だった・・・・」
「見張りの目を掻い潜って被験体を殺した所をみると・・・。
・・・・いや、何でもない」
「いや、言ってくれ。君の見解を聞きたい」
真っ直ぐな視線を受け、ナナシはあまり考えたくもない
仮説を口にした。
「内通者が・・・いるだろうな、兵団内に。
見張りの合間を縫っての迅速な行動から、
そう思ってしまう。組織というのは決して一枚岩ではないからな・・・」
「君もそう思うか。私達もそう考えている」
「『私達』という事はリヴァイ達も?」
「あぁ、そう考えるのが妥当だろう、と」
影を落としたエルヴィンにナナシは何と言って良いかわからず
視線を床に落とし「難儀だな・・・」と、独り言のように呟く。