第9章 悪夢と決意
ミケに言質を取られたとか、そういうのを抜きにして
ナナシは今ある時間を使ってエレンを鍛える事を決意した。
それがソロモンが見られなかった未来へ繋がる道だと思うし、
エルヴィンの手助けになるはずだから。
悲しまれるかもしれないが、余命のことや『制約』の事は
エルヴィンに相談してみよう。
彼なら自分を無駄なく使いこなせる指示を出せるだろうから。
例えそれが『異世』の掟に反する行為だとしても、
今を大事にしなくてどうするというのだろうか。
自分はつまらない時間を無駄に長く生き過ぎたというのに、
エルヴィン達やエレンは短い時を懸命に生きている。
そんな彼らに報いることが出来るのなら、
『異世』に帰ってから受ける罰は安いものだと思える。
「短い期間になってしまうだろうが、出来る限り
お主を強くしてみせるよ、エレン」
「ありがとうございますっ!」
花が咲いたように嬉しそうに笑ったエレンを見て、
ナナシは自分の選択は間違いではなかったのだと思った。
「もう寝ろ、エレン。巨人化にはかなりの体力が必要なのだろう?」
「はい!俺もう寝ますね。明日からよろしくお願いします」
いそいそと布団に潜ったエレンは子供のようで(実際子供だけれど)
可愛く思え、ナナシは彼の頭を撫でる。
「お主が眠るまで、ここにいてやるから安心して眠れ」
「はい」
エレンが従順に瞼を閉じたのを確認すると、
ナナシは彼の生体エネルギーをコントロールし熟睡できるようにした。
規則的な寝息を立て始めたエレンに「おやすみ」と言葉を掛け
牢から出ると、壁に凭れている人物が目に入り微苦笑する。