第8章 ナナシの『伝説』
「オルオさん達から、ナナシさんは身体が悪い事を聞いたんで、
そんな事俺は全然気にしませんっ!それに、ナナシさんの
『壁外単騎疾走伝説』を聞いて胸が熱くなりましたっ!」
「え?待て。何それ?」
聞き捨てならない妙な単語が出て来たので、
ナナシは嫌な予感がした。
エレンは胸に拳を当て敬礼すると、力説を始める。
「――はいっ!聞いた話によると、開閉扉が故障した際、
ナナシさんが単騎で壁外に行って調査兵団に緊急事態を
知らせた伝説ですっ!壁外をたった一人で疾走して
無事だったなんて凄過ぎますっ!」
「・・・・あぁ」
そういう事もあったな、とナナシが脱力していると、
エレンが更にとんでもない事を言ったので目を剥いた。
「今その話が編纂、製本されてバイブルとして調査兵団の図書室や
先輩達が持っているらしく、俺も欲しいと思っていますっ!!」
「あ゛ぁ゛?」
思わず腹の底から低い声が出て、エレンを睨むように見てしまった。
リヴァイ並みに凶悪な面構えになったナナシに怯えながら、
死に急ぎ野郎のエレンは詳細を語る。
「何でも、団長が執筆されハンジ分隊長によって編纂、
出版されて増刷もされたとかで・・・。でも増刷と言っても
たった十冊しかないレア本らしくて、皆で回し読みを・・・・」
ビキッとナナシの額に青筋が立った。
――・・・・・・殺す。