第6章 人の子
「おまえ・・・やっぱエレンを見て普通じゃねぇって事に
気づいたのか?」
ナナシの観察眼は恐ろしい程鋭い。
以前話していた生体エネルギーとやらを感知して
エレンの異常性を見抜いていたのではないかという疑念を
リヴァイは抱いたが、ナナシから返ってきたのはそうではなかった。
「いいや?全然。・・・ただ、精鋭の中に一人だけ新兵が
いる状況を推察すれば、重大な秘密があるだろうなとは
思っていたがな。本当に、ただそれだけだ」
それを聞いたリヴァイ達大人組は、少し緊張を解くように
息を吐いた。
ナナシは巨人化能力のある少年の身を預かる五人の心労に同情したが、
それよりも彼らに言いたい事があった。
「これだけは言っておく。私にとってエレンはただの子供だよ。
他の新兵と何も変わらないただの人間の子供さ。
それ以上でもそれ以下でもない。例え巨人化能力があろうと
それは覆らない。お主達は本当にエレン自身を見ているのか?」
ナナシの言葉に一番驚いたのはリヴァイでもリヴァイ班四人でもなく、
エレン本人だった。
エレンは呼吸を忘れるくらいジッとナナシを凝視したまま固まる。
「巨人化出来るという点においては確かに畏怖の対象と
なり得るだろう。お主達の気持ちも理解出来る。
だが、エレンは味方なんだろう?それなのに、
敵か味方か疑われて巨人化能力を行使せざるを得ない状況に
立たされているエレン自身の精神的ストレスは考えたか?
私はまだこの目で巨人化を見た訳ではないが、
エレンの精神的ケアも重要だと思うぞ?」
「それはどういう意味?」
過去1回だけ巨人化能力実験を行ったが、
エレンは満足にその力を行使出来なかった。
それと何か関係があるのか?とハンジは真剣な表情で
ナナシに問うた。
満足に力を扱えなかったというハンジの証言から
ナナシは自分の仮説を皆に語り聞かせた。