第33章 夫婦というもの
「俺も君が幸せになってくれる事を祈っている。・・・俺が
先に死ぬ場合もあるから、俺がいなくても幸せであるようにと・・・」
目を伏せたエルヴィンにナナシは少し眉を吊り上げて、
早口に捲し立てる。
「そうかそうか、先程私を大事にすると言った口で自分が
既に死ぬ気でいるとは、流石口が上手い団長様だな」
「そういう事じゃない。もしもの場合を・・・」
「そうじゃないと言うなら死ぬ気で生きろ。私を不幸にする気か?」
ナナシだって、最悪のもしもの事なんてわかっている。
だが、こうやって発破を掛けなければ、この男はいとも容易く
自らの命を切り捨てるだろうという確信があった。
だから、彼にはこうやって脅しのように言うしか無い。
少しでも自分を愛しているというならば、自らの死を安易に
選ばず、死に物狂いで帰ってこい、と。
エルヴィンもナナシの真意を汲み取り「わかった」と了承する。
それが口約束でも彼の心に少しでも響いてくれたなら、
それで良い。
指揮官であるエルヴィンは時には自分の命も犠牲にする
必要性に迫られるかもしれないというのはわかりきっていたからだ。