第33章 夫婦というもの
「私を大事にしてくれれば、それで充分だ。もう無理強いや
強姦紛いの事は止めて欲しい・・・。あれをやられると、
心がとても痛くなる」
「わかった。君を大事にする。もう二度と酷い事はしない」
握っているナナシの手だけでは物足りなくて、席を立って
ナナシの腰に縋り付くように抱きつくと、彼は優しく
エルヴィンの頭を撫でた。
「やはり、お主はいつまで経っても坊だな・・・」
「あぁ・・・君に対してだけは俺は本当の俺でいられる。
時には夢も忘れてしまう程に・・・」
自分の主軸である夢でさえ、ナナシを前にすると霞む時が
度々あったのは事実で、その度にその夢のお陰でナナシに
出会えたのだと自分を奮い立たせ、また夢を追い続けるという事の
繰り返しだった。
「お主は夢を捨ててはならぬ。今までの努力や犠牲を
無駄にするのか?」
「しないよ。俺は夢に生かされている。・・・そして、夢に
殺されるのだろう。だが、夢が叶ったならそれに殺されても
構わないと思っている。最期の瞬間まで諦めないだろう」
「・・・私はお主のそういう所が好きだ。私には
成し得なかった事を成そうとするその意志の強さが羨ましい」
「俺は強い訳じゃない。頑固なだけさ。それに君に救われている」
「私にではなく仲間にだろう?」
「勿論だ。君と多くの仲間に支えられ助けられて、
ここまで来られた。皆には感謝している」
「そういう素直に認める所は可愛げがあるな」
ナナシがふふっと優しく笑いながらエルヴィンの髪の毛を
梳くと、きちっと整えてある彼の髪が乱れたが、
彼は何の文句も言わず大人しくされるがままだ。