第33章 夫婦というもの
ナナシの世界の事は、エルヴィンにはわからない。
だから、どうすれば良いか、何をすればナナシの罪を
背負う事になるのか聞かなければわからない。
本当は聞きたい事が山のようにあったが、それを聞いてしまったら
ナナシがどこかへ行ってしまうような気がして恐くて聞けなくて
情けない事に、ナナシが話しても良いと思った時を
待っているしかなかった。
自分の死を感じたり、巨人を前にしてもこんな恐怖感は
決して味合わないというのに、ナナシに関してだけは恐怖が
先に立ってしまうのだ。
ナナシはエルヴィンの手に自分の手を重ね、静かに笑った。
「だったら、私を幸せにしてくれ」
その言葉を聞いた瞬間、エルヴィンは感情が高ぶり
重ねられていた手を強く握り返した。
「どうすれば良い?どうすれば、俺は君を幸せに出来るだろうか?」
これではまるでナナシからのプロポーズのようではないかと、
エルヴィンはポロポロと静かに涙を零す。
普段は絶対泣かないが、ナナシに関してだけは涙脆く、
彼の前でよく泣いてしまう自分が恥ずかしいとさえ思うが、
あまりにも嬉しくて自然と出てしまったのだ。
自分でこの涙は制御出来そうもない。