第33章 夫婦というもの
「顔色が良くないな・・・。私の部屋に来い」
心配そうに紡がれた言葉に反応出来ないまま、
エルヴィンはナナシに手を取られて歩き始める。
その後姿を見ながら、エルヴィンは昔を思い出していた。
父親を殺された後、訳も分からず憲兵団に追われ困っていた所を
救ってくれた時も自分はこうしてナナシの後を着いて行った・・・。
昔とは違い、自分は成長して背が高くなったのでその姿の
見え方は違うけれど、ナナシは今も昔も自分を引っ張っていく
指針に見えてしまう。
これはきっと依存なのだろうとはわかっていたが、
それでもエルヴィンはナナシを求めずにいられなかった。
古城に設けられたナナシの部屋に着くまで二人は何も言葉を
交わすこともなく、部屋に着いてからもエルヴィンが
どう話を切り出していいかわからず黙り込んでいると
「お茶を用意してくるから、お主はそこに座っていろ」
と言われ、部屋から出ていくナナシを呆然と見送った。
ナナシの態度がいつもと同じで、エルヴィンの困惑は更に増す。
ナナシがまだ怒っているのかすらわからない状況に不安が
募るし、実はもうエルヴィンの事がどうでも良くて、
全て無かった事にされたのだろうかと勘繰ってしまう。