第29章 エルドの想い
その後は宣言通り一日部屋で過ごし、
深夜寝苦しくなって起きるとナナシは外に出た。
窓から見えた月が綺麗で、古城周辺は自然豊かで空気も良く、
気晴らしついでに散歩するのも悪くないと思えたからだった。
森林に囲まれた空気はひんやりしているがとても心地良く、
ナナシはその辺にあった丸太に腰掛け空に浮かぶ月を静かに
見つめた。
今夜は月が良く見えるなと感嘆していると、近くで馬の啼き声と
人間の足音が聞こえたが、ナナシは敢えてそれを無視する
選択をする。
「ナナシ・・・」
名前を呼ばれても聞こえない振りをして黙ったまま
月を見上げ続けていると、相手は焦れたのかナナシの視界に
入るように真正面に立った。
大男のせいで月が見えなくなってしまったので、
不機嫌そうに「月が見えない」と苦情を言ってみても
相手はナナシの視界から退く気は無いようでその場を動かない。