第28章 何故、こうなったのか?
フラフラと歩いていると廊下の角で誰かとぶつかり倒れそうになったが、
相手が倒れるナナシの身体を支えてくれた事により
床との衝突は免れた。
「ナナシ・・・?どうした、そんなフラついて・・・」
「ミケ・・・」とぶつかった相手の名前を呼ぼうとしたが、
咳き込んでしまってそれも敵わない。
喉が枯れて痛い事に、この時漸く気づいた。
咳き込むナナシを心配して、ミケは持っていた水筒の中身を
ゆっくりナナシに飲ませ、その間に彼の様子と匂いで何が
あったかを察する。
目は泣き腫らしたように赤くなっており、シャツのボタンも
ほとんど取れていて、よく見れば、手首は赤く擦れていて
首筋にも赤い痕や痣が服の隙間から見えた。
「・・・エルヴィンにやられたのか?」
「・・・・・・・・」
ナナシは気まずそうに俯いただけだったが、それが答えだと思い
「これからすぐ古城に戻るか?それなら送っていく」と
提案すると、ナナシは無言のまま頷いて二人で厩へ向かった。
厩に向かう途中、ナナシがエルヴィンに見つかるのではないかと
ビクビクしながら歩いていた事にミケは気づいていたが、
気づかない振りをして彼の身体を支える。
エルヴィンと会うこともなく何とか厩に辿り着き馬に
乗ろうとしたが、身体が痛くて一人で乗る事が出来ず、
結局ミケの馬に二人で乗って行く事になった。
その際、ミケは自分のマントをナナシに着せフードを
被るように指示する。
ナナシもここでエルヴィンに見つかりたくなかったので
素直に従ったが、馬が調査兵団本部を出るまで気が気ではなかった。