第28章 何故、こうなったのか?
ナナシが目を覚ますと、そこは仮眠室でもなく自室でもなく、
エルヴィンの私室だった。
ベッドの上から窓へ目を向けると空は赤く、
それが夕日だと気づくのに暫く時間が掛かった。
どうやら自分は一日近く寝ていたようだ・・・。
ベッドから起きようと身体を動かすと、
身体中がギシギシ痛んで思うように動かなかった。
両腕は拘束された痕がくっきり残って赤くなっていて、
よく見れば全身に痣や歯型、キスマークが付いている事に気づく。
それを見ていると何故だかボロボロと涙が溢れてきて、
声を殺して泣いた。
混乱している頭では何も考えられなかったが、
ここには居たくないという気持ちだけははっきりしていたので、
痛くて重い身体に鞭打って置かれていた服を着て部屋を出る。
シャツのボタンはほとんど取れてしまっていて羽織るように
着る羽目になったが、ハイネックのインナーが無事だったのは
救いだった。
廊下に出ると、兵士達はまだ訓練中なのかあまり人がおらず、
壁に捕まりながらノロノロと厩へ向かった。
こんな身体では馬に乗れるかもわからなかったが、
兎に角エルヴィンに見つかる前にここから逃げ出したかった。