第26章 迷い
「流石にあれだけ執着され、騙されて婚姻届けを
提出された身としては、このくらいの学習はする。
あの男が今まで私に何をやってきた?その言動全てを
総合し分析すると対処法も産まれてくるというものだ」
「・・・だろうな」
今までの事を振り返ると、只管ナナシがストーキング行為と
セクハラとパワハラをされていた記憶しかないが、
そこから分析するとは「流石」としか言えんなとミケは思う。
「ナナシはこれからどうするんだ?」
「ここのソファでデータの整理と分析をしているつもりだ」
「そうか、俺はまだ仕事があるから、また後で」
「あぁ」
そう言ってミケは出ていき、執務室にはエルヴィンと
ナナシの二人だけになった。
二人だけになってもエルヴィンはナナシの言葉を忠実に守り
仕事をしていて、ナナシに話しかけはしなかった。
時折チラリとソファに座り、同じく仕事をしている
ナナシの姿を見てはいるが、仕事の手は休めない。
室内には二人が滑らすペンと紙の擦れる音しかせず
静寂そのものだったが、意外にも先に声を掛けたのは
ナナシだった。
「エルヴィン」
「ん?何だい?」
二人は手を止め視線を絡ませたが、ナナシは何か言いたそうに
しているものの、何から話せば良いのか迷っているようで、
なかなか次の言葉が出て来ない。