第20章 それぞれの愛
「ナナシ・・・君は随分と礼状を書き慣れているように見えるが・・・」
「あぁ、『迅鬼狼』時代に沢山書いたからな。こういうものの
書き方はソロモンに教わった」
「・・・・・・・・・・」
ソロモンの名を出した瞬間、エルヴィンはナナシの左手を握った。
突然の行動に驚いたナナシが顔を上げると眉を顰めた
エルヴィンがいて、何か地雷を踏んだことを悟ったが、
何が気に食わなかったのかサッパリわからない。
「な・・・何だ?」
おずおずと尋ねるとエルヴィンは少し拗ねた表情で
「まだ忘れてくれないのか?」と言ってきた。
「私というものがありながら、君はいつも『ソロモン、ソロモン』
と言うが、いい加減忘れてくれたって良いじゃないか。
君といるのは私なんだ!」
「・・・・・・・・・・・」
突然嫉妬されたナナシは呆れて物が言えなかった。
確かに『ソロモン』はナナシの元・恋人でエルヴィンが快く
思っていないのはわかるが、ただ普通の会話に名前が出ただけである。
それにすら嫉妬されてもナナシとしては困ってしまうだけだ。
この世界のナナシはソロモンからの教えで生きていると
言っても過言ではない。
処世術や歴史、礼節、書類の書き方等など、
ソロモンから教わった事を挙げたらキリがない。