第20章 それぞれの愛
一足先に食事を終えたエルヴィンが「思い出した」と席を立ち、
数枚の紙とペンをナナシの前に置いた。
「以前、君が狙撃される直前に行った夜会を覚えているだろうか?
はた迷惑な姉妹が君に難癖をつけ君の額に怪我を負わせた
時の事だ」
「あぁ!あの時の・・・・」
思考を巡らせ記憶を掘り起こしたナナシが頷くと、
エルヴィンはその時の夜会の主催者だった貴族が今でも
調査兵団に出資してくれており定期的に手紙のやり取りを
している旨を伝えた。
そして、その夫人がナナシ・・・つまりはエルヴィンの
婚約者であるナナリーをいたく気に入ったらしく、
たまにはナナシからの手紙が無いとまずいのだと言う。
ナナシもそういう貴族や商会から出資してもらうには
密に連絡を取り合っていた方が良いと知っているので、
エルヴィンの言わんとしている事がわかった。
「それで、私は夫人に礼状を書けば良いのか?」
「話が早くて助かるよ。あと、此方の紙には『ナナリー』の
名前を書いてくれないか?私と連名という感じで出したいんだ」
「了解した」
言われた通りに紙に筆を滑らせ終わったナナシがエルヴィンに
紙を渡すと、彼はとても嬉しそうな表情でそれを仕舞った。
何がそんなに嬉しいのかわからなかったが、
エルヴィンの機嫌が良いのは良い事なのでナナシは残っていた
食事を早急に片付けると、夫人への礼状を書き始める。
スラスラと礼状を書くナナシにエルヴィンは少し驚いた表情で
尋ねた。