第16章 どうしようもない男
「エルヴィン・・・いい加減戻ってきてくれぬと、
私は困ってしまう。廃人のお主とは何もヤル気が起きぬからな・・・」
―――刹那、廃人だったエルヴィンが蘇った。
素早くナナシの腰に腕を回し、抱きつくと
「夜が楽しみだよ、ナナシ!」と言って、
顔を彼のぺったんこな胸にスリスリと押し付ける。
それを見ていたミケとナナバは、何とも言えない表情で
二人を見守った。
・・・ナナシは完全にエルヴィンの操縦法をマスターしたようだと、
遠い目になる。
そんなエルヴィンの顔を退かし、「良いからさっさと名簿を出せ」と
甘い空気を無慈悲に砕いたナナシは、元の席に座りお茶を
啜り始めた。
エルヴィンは肩を落としながらデスクから名簿を取り出して
ナナシに渡すと、性懲りも無く彼の腰に手を回して
スリスリと撫で回す。
ナナシはこのくらいなら特に害はないと判断したのか
黙認して名簿に目を通し、人数の確認を行った。
「今期入った新兵を含めて、ざっと五十名か・・・。
簡単なものとは言え、訓練メニューまで考えるとなると
最低でも三日は掛かってしまうぞ」
「そんなに早く出来るとは、君は本当に優秀だな」
「その間はお主に構っている時間は無いからな。
邪魔だけはするなよ」
エルヴィンはピタリと動きを止め「嘘だろ?」という表情でナナシを見たが、彼は黙々と名簿を見ていてエルヴィンに
見向きもしなかった。