第16章 どうしようもない男
「屁理屈など聞きとうないわ。では尋ねよう。
本当に全部で五十冊なんだな?」
「・・・・あ、・・・あぁ・・・・」
「全部燃やせ。それを写したものも原本も全部だっ!」
「だが、それは・・・・」
「あ゛ぁ゛?」
エルヴィンが言い訳する事も許さない勢いでナナシが
メンチを切ると、彼は苦渋の表情で押し黙る。
関節を外されたエルヴィンは何の抵抗も出来ず、
ナナシの要求を飲むしか生き残る道は無かった。
今のナナシのキレ具合から見て、下手をすれば確実に殺られる。
冗談でも比喩でもなく確実に命を狩られるだろう。
ナナシはそれくらいの殺気を放っていた。
「わかった・・・。とても辛いが約束しよう。
私はこんな所で死ぬ訳にはいかないからね」
「懸命な判断だ、エルヴィン・スミス」
「君に乗っかられるのは嬉しいが、もうそろそろ関節を
戻してくれないだろうか?これでは仕事が出来ない」
エルヴィンがそう訴えると、ナナシは綺麗な微笑を浮かべて
言い放った。
「まだ暫くはそのままでいて貰おうか。私の受けた
精神的苦痛をお主にも味わってもらう」
「・・・・・何をするつもりだ?」
背筋にゾッと冷たい汗を流しながら問うと、
ナナシは鍼を取り出しエルヴィンの身体をなぞり始める。
「以前も言った通り、私の鍼治療は痛みを和らげたりも出来るが、
逆の事も出来るのだ。・・・つまり痛覚を直接刺激し、
少ない傷で相手に激痛を与える事が出来る。今後、
お主が馬鹿な真似を起こさないように少し躾させて貰うぞ」
エルヴィンの残酷な天使はこの世のものとは思えない程
綺麗な笑顔で、平然と拷問を始めたのだった。