The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第8章 Device ー仕掛けー
私とザックの2人の反応に満足したように1つ頷いて、レイは少しだけ口角をあげて微笑んだ。
私もその笑顔に嬉しくなって少しだけ微笑んでみせた。
ふと、隣にあったはずのザックの姿が無いことに気がついた私は辺りを見回す。
このあまり広くはない室内に、背の高い彼の姿……。
ザックをすぐに見つけることができた。
ザックはじっと、ザックの為のお墓らしき巨大な岩を見つめていた。
『……ザック、どうしたの?』
私が訊ねると、ザックは私達に背を向けたまま言う。
「……これ、ムカつくんだよ。
まだ死んでもねぇのに、墓なんざ作りやがって……。
最高にイライラすんな。ぶっ壊してやりてぇ……。」
ザックは、怒りのこもった低い声でポツリと呟いた。
私はその時、彼の包帯だらけの骨ばった手が、ぐっと強く大きな鎌の柄を握りしめて震えたのを……気づいてしまった。
「……そんなことをしたら、先にその鎌の刃が欠けちゃうよ。」
「うるせぇ、んなこたぁわかってんだよ‼
お前もさっさと穴ん中戻れ……っ‼
……俺はテメェと違って、こんな所でテメェと一緒に死ぬ気はねぇからな。」
そんなことを知るよしもないレイは、静かにそんなことを言う。
ザックはその言葉に余計に苛立ったのか、大きな声で吐き捨てるように叫んだ。
でも、最後の言葉だけは、異様に低く聞こえた。
ザックはその言葉の通り……、ここで死ぬ気はないんだと思う。
レイも、たぶん……そのことは充分わかっているはずだ。
「……ねぇザック。
できれば……、私のお墓は、壊さないで。」
それだけを静かに言ったレイは、ザックの返答を聞くこともなく、再び亀裂にその華奢な身体を滑り込ませた。
「………………知るかよ。」
そんな低く小さく頼りないザックの呟きは、きっとレイには届いていなかっただろう……。