The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第7章 Floor B4 ー地下4階ー
ーギリッ……ー
私がぐっと歯を噛みしめたその時……、
レイがそっと小さく呟いた。
「何か浮かんでいるね。」
「……あ?
ここには、どうせ死体しかねぇだろ。」
『"洗浄中"って書かれてあるみたいだし……、たぶんそうじゃないかな……?』
それぞれ口々に言ったところで、ザックが大きな声で叫んだ。
「……つか、さっきの死体の所為で手がベトベトでくせぇ‼」
『…………洗う?』
「…おー。」
そんな不機嫌そうなザックに、私は壁から絶え間なく注がれる冷水を人差し指で指し示して言う。
ザックは私が言った通りに、自分の包帯だらけの手を、その薬品くさい冷水ですすいだ。
「……あ、待って。
水の中に何かある……。」
ザックが手をすすいでいると、レイが何かを見つけたようで水中の何かを指さした。
『……本当だ。
何かな……。』
私が水中に手を伸ばして、その何かを取ろうとすると……、
私の手が水中に触れる前に、ザックの腕が伸びる。
「どうせ濡れてんだ。
わざわざお前が濡れる必要はねぇよ。」
『……わざわざどーも。』
「うるせぇな。
ついでに、だ。ついで……!」
『はいはい。』
親切なところもあるのかな……。
私は、そう思って苦笑した。
ザックは壁に立てかけていたらしい大きな鎌を再び持ち直して、歩いていく。
「……おし。手はこれでだいぶマシになったな。
んじゃあ、さっさと行こうぜ。
もうここには他に何にもねぇだろ。」