The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第7章 Floor B4 ー地下4階ー
「……悠。」
『……ん?
何?レイ。』
唐突にレイに呼び止められた私は、レイに目線を合わせて両膝を地面についた。
レイは、心配そうに眉尻を下げた。
「……口の、右端……。
切れてしまっている。
血が……。」
眉根を寄せたレイが、まるで自分が痛いかのように言う。
私は言われてから、口の右端にそっと触れる。
『っ……、痛……。』
ズキリ……と、小さく痛みが走り、私は顔をしかめた。
指先には、私の物と思われる血がついていた。
「……大丈夫?」
レイが不快感に顔をしかめた私の顔を覗き込んで言う。
その声音には、心配の色が垣間見えた……。
『……うん。大丈夫だよ。
心配しないで。』
私は安心させようと小さく微笑んで言う。
だが、痛みが走ってぎこちない笑みになってしまった。
私はハンカチと鏡をカーディガンのポケットから取り出して、口の右端を拭こうと思ったが、乾いたハンカチの布のざらついた感触に…、
私は眉をひそめて結局やめたのだった。
すると、いきなり殺人鬼が私の手首を掴んだ。
『!?
な、何……?』
「……黙ってろ。」
彼はそれだけを言って、私の口の右端を軽く舐めた。