The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第5章 Floor B5 ー地下5階ー
消毒用アルコールのような香りの漂う、清潔感のある病院のようなフロアだった。
B7みたいに、真っ白……。
だけれども、ついさっきまで人がここにいたような気配が残っている…。
「……悠?
悠なの……?」
私を呼ぶ声に、私は辺りを見回した。
声の主は、すぐに見つけることができた。
『……レイチェル‼
良かった。無事だったんだね……‼』
「……うん。
悠も無事で…本当に良かった……。」
私はレイチェルに駆け寄って、華奢な体格の相手をぎゅっと抱きしめた。
右手の動きがぎこちないのを、レイチェルにはバレなかっただろうか……。
レイチェルは戸惑いつつも、そっと私を抱きしめ返してくれた。
「……レイチェル。
その人が、如月悠さんかい……?」
『……そう。
私の恩人。大切な人……。』
不意に聞こえた声に、私達は身体を離した。
答えたレイチェルの視線の先に、その人はいた……。
歩いてきたその男性は、白衣を着ていた。
きっと、医師か何かなのだろう。
にこやかに笑みを浮かべたその男性は、視線をレイチェルから私にへと向けた。
……その右目が、まるで偽物みたいに冷たいものにしか見えなくて、私は思わず視線をそらして顔を伏せた。
……怖い。