The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第23章 Escape -脱出-
「……ここに来てから、
貰ったものもある。」
「…あ?
じゃあ、お前のじゃないのか?」
「…………どうかな。
縫ったり、繕ったりして、
私の物にしようとしたけど……。
人形は返事をくれないから……
私の物だったかわからない。」
その声は、どこか少し悲しげに聞こえる。
「……けど、私は、
大事に思ってたから…
さよならをしたの。」
「……ふーん。」
レイの言葉に適当な返事を返すザック。
さぞかし大事なものだったのだろう。
レイが語るその声音から、"寂しさ"が消えることはなさそうだった。
ザックの適当な相槌に、
レイが思い出した様に更にこうつづけた。
「…あぁ。
オルゴールは、元々持っていたものだよ。
あれは、小さい頃…。
最後に買ってもらったものだったかな。
……あの音、とても好きだったな。」
懐かしむ様にレイが言う。
そんなレイに、ザックがこう言った。
「……欲しけりゃあ、
持ってくれば良かったんじゃねぇのか?」
私は少し呆れてしまった。
…ザックは一体、何のための"お別れ"だと思っているのだろうか。
「…。」
身動ぎをする衣擦れの音が聞こえて、
レイは静かに言った。
「……いいの、もう。
音も思い出も、
私が全部わかってるから。
それだけあれば、
あとは何も無くても……____
…良いの。」