The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第23章 Escape -脱出-
「…今更、言い訳にしか聞こえないでしょうが、
ご報告をと思いまして。
……この男、ダニエル=ディケンズは、
私が止めを刺すまで、生きていらっしゃいました。」
『っ……!?』
「彼らの耳には、
入れない方がよろしいかと思いまして……。」
驚いた私は、思わずガバッと彼の方を振り返った。
彼は、深い紅茶色の目をスッと細めて、
私を見つめた。
「……彼は、
貴女がここから脱出するために、邪魔にしかなり得ないのです。
……ですので、
お嬢様の指示を仰ぐことなく、始末しました。」
___…嗚呼。
___……まだ、生きていらっしゃるのですね……。
うっそりと静かに微笑む彼の姿が容易に想像出来る。
『…そう、か。
もう良い。
その判断は正しいよ。
……行こう。』
「…お待ちください。」
『まだ何か…
……っ!?』
まだ何かを言おうとするセバスチャンに
少々苛立った私は、声を荒らげつつ振り返る。
……が、すぐにその感情も、言葉も、
その吐息ごと、全てを奪われてしまった……。
グッと手首を掴まれ、手繰り寄せられた私の身体。
反対の彼の手が私の腰を抱く。
私の視界のすぐ目の前で、漆黒の髪が揺れている。
「……今のは食事でも、
ましてやつまみ食いでもありません。
……この意味が、お分かりでしょう?」
ふわりと離れた身体。
離れた艶めかしい唇がそんな言葉を紡ぐ。