The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第23章 Escape -脱出-
まだ唇に、彼の少し低い体温が残っている様な気がする…。
戸惑いつつ彼を見上げると、
彼の口の端がゆっくりとつり上がって、弧を描いた。
「……嗚呼。
貴女のそういう表情も、悪くありませんね……。」
意地悪な吐息混じりの艶っぽい声に、
私はわなわなと身体を震わせた。
「……お嬢様。
私以外の男性に、"味見"をされた罰です。」
手袋をした人差し指が1本。
彼自身の唇に近づけられる。
『…なっ!?!?
せ、セバスチャン、あなた…っ!!』
その様子を知られていたことの恥ずかしさに、
再び顔がかぁっと熱を持つ。
思わず振り上げた利き手は、
案の定あっさりと掴まれて、
私は彼にあっさりと抱き上げられてしまった。
「……さぁ、先を急ぎましょう。
随分なタイムロスでしたので。」
『……誰の所為だと……。』
反論しようとして彼と目が合い、
私はグッと押し黙る。
「……ふふ。
ご理解いただけたようで…。」
……この、悪魔めっ!!!!
心の中で毒づいたことを、
きっと彼は理解しているのだろう。
…だが、
そんなことを気にすることもなく
彼は私を抱き抱えたまま、歩を進めた…。