The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第19章 Ray -レイ-
『…この花瓶の花。
造花……?
花の香料でもつけてあるのかな…。
良い匂い……。』
「…ああ。
なんか花、たくさん置いてあんだな。
…でも、なんで全部ニセモノなんだよ。」
眉根を寄せて不思議そうにしているザックに
私は小さく言う。
『……さぁ。
でも、もしかしたら、悲しいのかも……。』
「……悲しい?」
ザックの小さな呟きにそっと答えると、
ザックは"わからない"といった様子で、
首を傾げて、オウム返しに訊ねてきた。
『……うん。
まぁ、私なりの考えなのだけれど……。
生き物は、生きている限り…
必ず"死"に直面するもの。
その"死"は、儚く、美しくもあり…
けれども、醜く、悲しいもの……。
だからきっと、"死なない"…
散らない花が良いんじゃないのかな……。』
「…よくわかんねぇけど、
悠がそう言うなら、きっとそうなんだろうな。」
ザックをチラリ…と横目で見ると、
彼は真剣そうな面持ちで、
じっとただその造花を見つめていた。