The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第12章 Master and servant ー主従ー
『……ザッ、ク……?』
「……ザック……‼」
私と、レイの悲痛な叫びが重なる。
「……。
…………。
はぁあぁあっ!?」
女性が、ドスのきいた声をあげた。
防弾ガラスの壁を退けて、階段を下り、
レイに駆け寄った。
そして、その小さく白い頬に、
思い切り平手打ちをかました。
その瞬間____
レイの表情が嫌そうに…曇った。
叩かれた事よりも、叩かれたことによって呼び起こされた
"以前の何か"に顔を曇らせたようだった。
「ああああぁぁ、おぞましい‼
模範的なんて間違いだったわ‼
せっかく銃を渡してあげたのに、
ここで、引き金1つ引けないあなたは、
罪人のなり損ない‼
アイザック=フォスターは、
欲望に駆られて自分で自分を殺すほど、
愚かだなんて……____
…………失望したわ‼」
嘆くように女性は言った。
私は、痛々しいザックを見下ろす。
傷口から、とめどなく溢れてくる血液が、
ザックの衣服を、包帯を……。
真っ赤に染め上げる……。
……嗚呼。
こんなことに、なってしまうなんて……。
私は、グッと唇を噛んだ。
「……あああ。
これなら、ザックの方がよかった。
蜂の巣になるのは、
きっと彼の方がお似合いだったはずなのに……。
あんたなんか断罪しても、何も面白くないわ‼
あぁ、レイチェル……。
あなたって、本当につまらない人間ね……‼」
ヒステリックにそう叫びながら、
女性はもう1度、レイの頬に平手打ちを浴びせた。