The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第10章 Butler ー執事ー
「……お下がり下さい。お嬢様……。」
そう考えていた私の思考を遮るように、
セバスチャンの静かな声が、私の鼓膜を震わせた。
セバスチャンは私に静かにそう告げて、
私を見つめていたエディと、私の間に割って入った。
「ねぇ、2人とも。
こんな悪魔みたいな奴なんかやめて、
ボクのお墓に入ろうよ‼……ね?」
ザックとセバスチャンをそっちのけで、
私とレイを交互に見て、語りかけるような口調で話すエディ。
そして、彼は更に早口でこう続けた。
「お墓に入ったらもう、家にだって帰らなくて良いんだ。
レイチェルの……あんな酷い両親がいた家には……。」
その瞬間、レイの表情に影が落ち、レイが身をこわばらせた気がした。
そして、エディの次の言葉は、私の身を凍りつかせた。
「悠に、あんな酷いことをした人達の言いなりにならなくても、
あんな場所に帰らなくてもいいんだ……‼」
セバスチャンの背中から、黒い気配が漂う。
彼が一瞬で殺気立っているのがわかった。
__エディは、何故そんなことを知っているのだろう…。
私が、忘れていた……__
……いや、違う。
忘れようと、記憶から消し去っていた過去を……。
私の胸中には、そんな疑問で満たされ
心がグラグラと揺れていた……。
私は、震えていた。
掘り返されたくない私の過去が暴かれるのが、怖かった。
静かだった私の心の湖面を、波を作って乱していく……。
それを打ち破ったのは、ザックの声だった……。