第4章 (鬼)紅玉の夢
その日は快晴だった。最近は雨続きだったのを忘れたようにからりと晴れ、空には雲のひとつもない。
その清々しいほどの空気の中で、あまたの物の中ですっとそれに目が行ったのは、惹き寄せられたからなのだろうか。はたまた運命か。
運命とは命を運ぶと書いた。私はそこへ命を運ばれたのだろうか。
気まぐれに出向いた骨董市のとある品の前、私は強い力に引かれたような心地を抱きながら足を止めていた。
それは一瞬ランプのように見えた。
全体はアンティークゴールド色の金物で出来、丸い土台から弧を描くように湾曲して伸びた枝の先には、ふくれた実の形をした籠が下がっている。
先に行くに従って細くなるその中には、きらきらと輝く炎のような橙の石。
金物は経年の変色があるもののしっとりとして落ち着いた見た目をしていた。特に精緻な細工があるだとか仕掛けが素晴らしいだとか特徴があるわけではなかったが、私はなぜだかとてもそれから目が離せなかった。
「それは鬼灯だよ」
不意に声をかけられ、私ははっとして顔を上げた。このブースの店員らしいおじさんが、人の良さそうな顔でこちらを見ている。
「鬼灯ってわかるか?お盆の時期の飾りなんだけど」
「はい。名前だけは」
「霊が迎え火とか提灯の灯りを目印に集まるって言われているらしくて、鬼灯はその提灯に見立てられて飾られるんだよ。お盆の時期にやってくるご先祖様の霊が迷わないようにね」
死者の灯。
「そうなんですか…」
そうだ、これは鬼灯というのだった。私は脳内の記憶を手繰り寄せて、植物である鬼灯の姿を探すが、どれも朧気だ。あとで調べてみよう。
それよりもこの鬼灯の置飾り。
金物の色と橙の石の色がとても綺麗に馴染んでいた。陽にきらきら輝いて、炎のかけらが入っているみたい。何より飾り気の無い姿にとても惹かれる。
ここは骨董市場だ。螺鈿や銀細工や綺麗なものはたくさんあるはずなのに、なんだかこれが一番美しいように思えた。