第4章 (鬼)紅玉の夢
「うそ…」
割れている。
鬼灯の実の先が一部分、ちょうど四等分に縦筋が入っているうちのひとつが、蓋を明けたように先から割れていた。
まるで本物の鬼灯の実のように割れたそこから、橙の石は放たれたのだ。
驚くと同時に、それ以上に焦った。もしかしてもう壊れちゃったの?動揺する私の目は、慌てて他の石の無事を確認する。
…大丈夫、他のは無事。だけどあと三つの石もそれぞれ一つずつが、筋に囲われた部屋の中に入っているのだった。
なんだかよくわからないけど、直せないかな。直せなかったらどうしよう。貰ったばかりなのに。
ショックを受けながら橙の石を拾い鬼灯の実に触れた瞬間、手の中でパキンと乾いた音がした。同時に、今まで確かに硬いものを掴んでいた指が空を切る。その指の周りを陽に照らされた雪のように細やかな橙の石の破片がきらきらと舞った。
石は、人がやったにしてもここまでは砕けないだろうというくらい粉々で跡形も無くなってしまった。欠片すらもすっと空気に溶けてしまったようで、私は唖然とする。
一瞬の間に石ひとつがすっかり消えた。何の力も入れていないのに、まるで薄氷のように呆気無く。
なぜ。
疑問を浮かべる前に、私の目の前で、とどめを刺すようなありえないことが更にもう一つ。
「……おや?ここは…」
「は……えぇ!?」
唐突に目の前に現れたのは、襟が緋色の黒い着物を着た、一人の男。やたら身長が高くて見上げないと顔が見えない。
その男は驚いたようにきょろきょろと周りを見回していた。やがて私に視線の照準を当てると、訝しげに眉をひそめる。私はまるで貫かれたように動けず仕舞いで。
「あなた誰ですか。急に景色が変わるもので吃驚しましたよ、何してくれてんです」
「いや…あの」
非現実的な現象が次々と起きすぎて答える事ができない。頭が理解を放棄している。
何をしたのかなんてそれどころじゃない私の視線は、その男の額に釘付けになっていた。
人間にはあるまじき角が、そこにあったのだ。
2014/2/23
(石の数だけ鬼灯様に会えるという設定だったのであった)