第1章 (鬼)暗転 (事故ネタ)
ふと、視線をやると、一人の男が私をじっと見ていた。
なんだろう?と首を傾げる。帽子を目深に被ったジーンズ姿のラフな格好の黒髪男。格好はラフだけどダサくはなくて、だからといって香水が匂って来そうなあざといほどのお洒落さでもなく、絶妙なコーディネートに思わず上から下まで観察してしまう。
その男が、何やらため息をつくような仕草をしてこちらへ向かってきた。
こちらへ。
「!?」
そこでようやく異常事態を飲み込む私。
だって他の人や友達も誰も私に目をくれないのだ。私の捻じれた体の方ばかり見ていて、私なんか見えないと言いたげなほど視線を止めないのだ。
なのにこの男。
「…偶に現世に遊びに来たと思ったらこれですか」
しなるような声。不機嫌そうな目。軽くため息をつく唇。でも確かにその目は私を見ている。
ぽかんとしてその顔を見上げていると、腕を掴まれた。
「行きますよ」
「行くって…どこへ」
事態を飲み込めない私を面白がるように、彼はにやりと笑っていた。
「地獄に、です」
2013/7/10