第1章 (鬼)暗転 (事故ネタ)
私は夢を見ているようだった。
夢?ううん、これは夢じゃない。突然、思いっきり突き飛ばされた体と浮遊感。後を引くように点々と散る赤い花。反転する空。傾く世界。喉が収縮してひゅうと鳴った。
大岩に頭をぶつけた時ってこんな感覚がするのだろうか。
体の中、ぐちゃぐちゃに混ぜられたみたいになって。
痛くはなかった。本当に夢のような、というか現実感のない一瞬だったけど、現実だった。
ただ私は、気づけばまるで傍観者のように道路に立っていて、目の前の阿鼻叫喚をぼんやりと眺めていた。
何が起こったんだろう。やっぱり夢だった?
さっきまで一緒に歩いて笑っていた友達が真っ青な顔をして叫んでいる。その頬には涙はない。ただ心配になるくらい震えていた。そして口を押さえる。
車から出てくる男性。群がる野次馬。私の体を見た途端顔を背けて嘔吐。
あぁ、誰も見なきゃいいのに。
見ないでよ。
そんな。
滑稽に捻れた。
わたしのからだを。
交通事故に遭った私は即死。誰が見ても即死なのに、救急車とパトカーが来た。
それを見つめながらも尚、救急隊員の人達が顔をしかめて私の体を運ぶのを見つめながらも尚、感情と呼べるものは何一つ自分の中に感じられなくて。
もしかして置いてきちゃったのかな。
「………」