第5章 ____顔
「大丈夫?」
声をかけられて顔を上げると、笹塚さんと話していた女子高生が。
可愛い子だ。心配そうにこちらを覗き込んでいる。私は笑った。
「平気…ちょっと寒いだけ」
「そうだよね、こんなに濡れてたんじゃ…ふわ!」
いきなり女子高生の頭ががしっと掴まれ、背後からいつの間に現れたのか長身の男が現れた。
ひどく顔立ちが整っている。一般的にはあまり見られない妙な出で立ちとその顔は違和感もなく調和が取れていて、呆気にとられてしまった。
ぽかんと見上げていると見返すようにじっと見つめられ、やがてにっこり微笑まれた。
そして彼は女子高生の耳元で何やらささやく。
「貴様が布団になれヤコ。今なら我が輩直々に麺棒でのばしてやるぞ」
「絶対やだっ」
「役立たずのダニが…雑巾程にも役に立たん。時に貴様、名は何と言う」
いきなり話題を振られ、びくっと固まる。何だかこの人、危ない感じがする。
危ないというか、怖いというか。得体が知れないというか。
「未来…です」
「未来か…人間にしてはなかなか興味深い顔立ちをしている」
「え。私、顔に何か…?」
「そういう事ではない。…今までその顔について何か言われた事は?」
「ありません、けど」
「ふむ。人間どもにはわからんのだな」
鷹揚にうなずくと、ネウロは不敵に笑む。
その時、刑事が台所から戻ってきた。
「…お茶」
「あ、どうも」
「熱いから気をつけて」
湯気を立てる湯呑みを私は両手で包んだ。
じんわりと温かい。熱いからと言いながらも丁度いい温度で淹れてくれたようで、溶かされていくような温かさだ。
一口口に含んで、ほっと息をついた。
「あったかい…」
ようやく肩の力が抜け、安心出来たような気がして、私は少しだけ微笑む。
すると刑事さんが私の前に立ち、湯呑みを受け取る時に横に置いたジャケットをふわりと肩に羽織らせた。
「着てて」
「でも、刑事さんが寒いんじゃ…」
「俺は別に平気。濡れてねーし、寒くはない」
「…ありがとうございます」
傘を貸そうとしてくれた時に言えなかった分も心を込めて言う。
刑事の表情は変わらなかったが、雰囲気は何だか柔らかくなった気がした。
2009/05/26