第4章 ___寒
女の子の叫び声のようなけったいなものが聞こえ、ふと私の意識は現に引き戻された。
うっすらと開いた視界に、薄汚れたコンクリートの天井。全く見た事がない場所だ。
何でここにいるのかさっぱりわからなくて、やたらずきずき痛み始めた頭を抱えて半身を起こす。
「…目、覚めた?」
「……あ」
声に振り返ると、あの無気力さんがいた。じっとこちらを見ている。辺りを見るに、私はどうやらソファに寝かされているらしく、介抱してくれたのだとわかった。
そういえば倒れちゃったんだっけ、と考えていると、身体からするりと何かが落ちた。
条件反射で掴んでみれば、グレーのスーツジャケット。
「これ…すみません、私…」
「いーよ。勝手にやったの俺だし」
火のついていた煙草を携帯灰皿に押し付けると、刑事は立ち上がった。
「それより寒くないのかそっちの方が心配。何かあったかいもん持ってこようか」
「いえ、そんな…お構いなく」
「病人は大人しくしてるように」
強く言われて私は気圧された。
刑事さんは近くにいた女子高生に台所の場所を尋ね、そちらに向かう。
私が遠慮する暇もなく部屋に消えてしまった。
まだはっきりと状況が飲み込めず戸惑いが渦巻いている。不意に走る震えに身体を縮めた。この分だと熱、出てるだろうな。
そしてここはどこなんだろう。刑事さんが離れてしまったせいか、何だか心細くなって俯いた。
「…寒い…」
吐息と共に漏らしながら、かけられたジャケットを引き寄せる。
ふわりと煙草の匂いがして、あの笹塚さんという刑事は煙草を吸うのかと考えた。
2009/05/19