第2章 _白
「…邪魔するよ」
魔界探偵事務所とかなんとか明らかにうさんくさい文字を掲げるドアをノックして、返事を待たずに入る。
部屋を見てすぐ目に入るのは一番奥にあるデスク。そしてソファから女子高校生が顔を覗かせた。
「あ、こんにちは笹塚さ…って何背負ってるんですか!」
「…女の子」
「どこ触ってるんですか!」
「…腰」
驚いて飛びのいた桂木弥子が座っていたソファに、肩から下ろした彼女をゆっくりと寝かせた。
しばし逡巡してから、グレーのスーツジャケットを脱ぐ。
煙草の臭いが彼女に移ると嫌がるか、と思ったが、自分が男で相手が女の子である手前濡れた服を脱がせたり身体を拭いたりもできなくて、素直にジャケットを被せた。
ここなら十分に暖房がきいている。寒くはないだろうし、温かいお茶や何かも出るだろうと思っての来訪だった。
「さっささ笹塚さんえらく可愛い女の子拉致ってきましたね…!大丈夫です私秘密にしてますから!」
弥子ちゃん、どもりすぎ。
「違うから…別に拉致ってないし。熱あったみたいで、目の前で倒れちゃってさ。この場合は仕方ないだろ」
そう言いながら寝ている彼女を見下ろす。
濡れた黒髪と、寒さのせいか白い肌。人形みたいだ、と思った。