第8章 _______脳
「…未来ちゃん」
刑事さんに名前を呼ばれるまで。
私は現実とも夢ともつかない中途半端な意識の中、ネウロの瞳だけをずっと捕らえていた。
まるで催眠術にでもかかっているような浮遊感。周りの音はボリュームゼロ。
景色も覆われたように視界から除かれた中、人間のものとは思えない鋭い眼光が貫く。
「未来ちゃん」
はっとして振り向いた。
刑事が、変わらない表情で私を見ていた。
「すみません。…行きます」
鞄と、刑事さんの上着を持って。
刑事さんはネウロに呼ばれて何か話していた。なんだか弥子ちゃんに対する表情とは違って見えるのは気の所為?
私はソファから立ち上がり、弥子ちゃんを見る。
「お茶、ごちそうさまでした。迷惑かけてごめんね」
その言葉を聞くと彼女はふるふると首を振った。
「私の方こそ。何かバイトさせることになっちゃって…ごめんなさい」
「ううん、いいの。丁度何かバイト始めようかなと思ってたところだったから。とりあえず、今日は本当にありがとうございました。明日から宜しくお願いします」
そう言って安心させるように微笑むと、私は刑事さんと連れ立って事務所を出た。
2009/06/19