第8章 _______脳
「…あ、じゃあ私行きます」
立ち上がって、鞄を取る。それを弥子ちゃんの声が引き止めた。
「あのっ…本当にいいんですか?こんなとこでバイトなんて」
心配そうに尋ねる彼女に、私は微笑んで答えた。
「大丈夫です。有名な女子高生探偵さんのもとで働けるなんてそうそうないし。私で役に立てるなら喜んで」
それを聞いて弥子ちゃんは複雑そうな顔をした。バイトを通して事件に関わらせてしまう事を心配してくれているのだろうか。
確かに危険なことがあるのかもしれない。探偵の仕事といえば浮気調査とか素性調査とかが一番に思いつくけど、それだけじゃないだろうし。
彼女から目を上げれば、妙に確信的な表情を浮かべた青いスーツの人が、こちらをじっと見つめていた。
「…ああ、そういえば」
視線が絡み合ったままで、唇を開く彼。
「まだ名乗っていなかったか。我が輩の名は脳噛ネウロだ」
「…ネウロ」
どこかで聞いた事がある、と思った。
確か、神経とかの英単語がローマ字読みでネウロだった気がする。暗記の時にネウロで覚えたはず。
"Neuro"。ネウロ。ノイローゼ。ニューロン。
脳噛ネウロ。