第5章 24~
わかっていたはずだ。逃げたなら逃げたなりの責任を負うと。
わかっていたはずだ。他人と関われば、知らずのうちに彼らを罪人にしてしまうと。
わかっていたはずだ。自由が欲しいなら一人で生きていくしかないと。
わかっていたはずだ。
わかっていたはずだ。
「なんで!」
それでも、乃芽は怒鳴る。
「関係ないのあの人達は!優しいだけじゃない…親切が罪になるなんて聞いた事ない!」
「それでも罪人相手の親切は罪だ」
「だからおかしいって言ってるのよこの世界は。優しい人を優しい人だと認識しないもの」
薄く涙が滲む。空気が辛い気がする。
目の前の要は相変わらず真面目な顔をしていて。
ねぇ、笑ってよ。そうしないと本当だと思っちゃうでしょう。
私のせいだ。乃芽は唇を噛み締める。
私のせいだ私のせいだ私のせいだ全部。身勝手で考え無しの私が。
知らない振りをして、身を託そうとしたりしたから。
「…失いたくないんだな」
要の声は水面の向こう側のように遠かった。
「失いたいように見えるわけ」
「いや」
「………」
「どうしてなんだろうな」
それは何に対してなのかわからなかった。その声音に重く沈んだものを感じて乃芽は顔を上げる。
彼はやはり、笑っても怒ってもいなかった。
「失いたくないのなら、方法が一つだけある」
「……言って」
「今すぐ城に出向いてお庭番衆に戻れ。前みたいに、お庭番衆を統率する頭に戻れ。お前は逃げなかったし、万事屋に会わなかったし、真選組にも隠れなかった。…そういう"無かった事"もある」
「………」
「お前にはそれが許される」
戻る。
戻れというのか。私に。
何て酷なんだろう、と乃芽は笑った。もう万事屋に囲まれる居心地の良さを知ってしまったのに。
甘いものを食べた後では、苦いものは更に苦くなる。
優しい人を優しい人だと認識しない人たちに嫌になった。
綺麗なものを綺麗だと素直に感じる心はどこに行ったのだろう。
戻ればまた欺瞞だらけの言の葉交わし。優しさは嘘。騙しこそ正義。偽り通した者勝ちで大きいものを手に入れた者勝ちの世界。
それでも。
あの人たちが殺されてしまうよりかは何倍も何万倍もマシだった。
2009/05/21